業種別の集客読了 約10分

旅館の自社予約(直販)を増やすには?
予約サイトとの付き合い方と、公式サイト・動画の役割

執筆:木本 一心(ホマレグラフ株式会社 代表)出典 11件を記事の最後に掲載
庭の緑を望む和室の窓辺と座卓

「予約は入っているのに、手数料を払うと手元に残らない」予約サイト(OTA)に頼る旅館や宿の経営者にとって、自社予約をどう増やすかは長年の課題です。この記事では、観光庁と山梨県の統計で宿泊客の動きを確かめ、予約サイトとの付き合い方、公式サイトと動画の役割、リピーターと季節の発信を順に整理します。何から手をつければいいのでしょうか。

01なぜ、自社予約を増やしたいのか?

自社予約(直販)とは、宿の公式サイトや電話で、お客様から直接予約を受けることです。予約サイト経由の予約と比べて、主に3つの違いがあります。

  • 手数料:予約サイトには、予約の実績に応じた手数料がかかる。率は予約サイトや契約の内容によって違う。
  • お客様とのつながり:直販なら、次の案内を宿から直接届けやすい。
  • 売り方の自由:公式サイト限定のプランや特典を、宿の考えで作れる。

観光庁の検討委員会に出された資料(2025年2月、民間のコンサル会社作成)では、予約サイトの通常の手数料は「15%程度」と図示されています。実際の手数料の額は、自社の請求書で確かめてみてください。

観光庁の「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」も、取り組むことの一つに「自社サイトでの直販チャネルの構築」を挙げています。自社でお客様を管理し、自立した経営をするためです。

ただし、直販を増やすには、予約の仕組みや問い合わせへの対応、発信の手間がかかります。手数料と、その手間を比べながら進めることが大切です。

02山梨の宿は、いまどんな状況か?

観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年の確定値)で、山梨県の宿を見てみましょう。

泊まる人は増えているのに、客室の稼働率は43.8%で全国46位でした。旅館に限ると34.4%で、全国の旅館の平均(38.2%)を下回ります。旅館の客室は、1年を通して6割以上が空いている計算です。

施設の種類別では、2025年の山梨の旅館の延べ宿泊者数は約309万人泊で、リゾートホテル(約285万人泊)を上回りました。お客様は来ているのに、部屋が埋まりきっていない。その差を直販で少しずつ埋めていく、という考え方です。

月ごとに見ると、いちばん高いのは8月で、1〜2月、6月、12月が低くなっています。山梨の旅館の稼働率は、8月と9月を除けば30%前後の月が続きます。谷の月をどう埋めるかが、直販を考えるうえでも大切な視点です。

03予約サイトは、やめたほうがいいのか?

やめる必要はありません。観光庁の旅行・観光消費動向調査(2025年)では、国内の観光目的の宿泊旅行の約49%が、旅行会社や予約サイトのウェブで申し込まれていました。初めてのお客様に見つけてもらう場所として、予約サイトの力は大きいのです。

大切なのは役割を分けることです。初めての人は予約サイトで出会い、2回目からは公式サイトで予約してもらう。この流れを作れれば、予約サイトに払う手数料を、新しいお客様に出会うための費用として考えられます。

まずは1か月、予約が入った経路を、予約サイトごと、公式サイト、電話に分けて数えてみましょう。初めての人とリピーターも分けておくと、2回目の予約がどこから入っているかが見えてきます。

公式サイトを安くしてもいいのか

公正取引委員会は2019年と2022年に、大手の予約サイト3社が宿に求めていた「ほかの販売経路と同じか、より有利な料金にする」条件について、取りやめる計画を認めました。ただ、2022年の2社の件では、「宿の自社サイトと同じか、より安くする」という条件は、取りやめの対象から外されていました。

料金をどう設定できるかは、予約サイトごとの契約によります。料金は同じにして、夕食の一品やレイトチェックアウトなど、公式サイト限定の特典で差をつけるのが、契約の面でも無理のない方法です。

04リピーターを、公式サイトに呼ぶには?

山梨県の観光入込客統計(2024年、県内の観光地でのアンケート調査)を見ると、山梨は「何度も来てもらえる土地」です。

  • 県外のお客様の61.2%が、東京・神奈川・埼玉・千葉の首都圏から。
  • 県外・海外のお客様の60.1%が、1年に1回以上山梨に来ている。
  • 県内に泊まった人の82.7%が1泊。観光客の同行者は「家族」が62.3%(複数回答)。

首都圏から家族で、1泊で、何度も来る。そんなお客様が多いからこそ、2回目の予約を公式サイトに呼ぶ余地があります。

帰る前に、次のきっかけを渡す

チェックアウトのときに、次回使える公式サイト限定の特典を案内しましょう。客室に置くカードにQRコードを載せて、LINE公式アカウントに登録してもらう方法もあります。配信の頻度や友だちの集め方は「LINE公式アカウントの使い方」で紹介しています。

公式サイトだけの理由を用意する

同じ料金なら、お客様は使い慣れた予約サイトを選びがちです。地元のワインの一杯、果物のお土産、チェックアウトの延長など、山梨の宿らしい小さな特典を、公式サイトだけで用意しましょう。特典は、公式サイトの最初の画面で分かるように書きます。

宿泊者名簿は、旅館業法で定められた記録です。お知らせを送るなら、名簿とは別に、送ってよいと同意をもらった連絡先を使うのが安心です。

業種別に見ると

リピーターを公式サイトに呼ぶ工夫は、宿の形によって変わります。考え方の例をまとめました。

温泉旅館たとえば温泉旅館なら、季節ごとに変わる料理が、また来る理由になります。次の季節の献立の予定を、チェックアウトのときやLINEで先に知らせ、公式サイトだけの一品や部屋の指定を用意すると、2回目を公式サイトで予約してもらいやすくなります。
ペンション・民宿たとえばペンションや民宿なら、オーナー夫婦の人柄が、宿を選ぶ理由そのものです。オーナーの顔が見える動画や、季節の手紙のような発信を続けると、常連のお客様が電話や公式サイトで直接予約してくれる関係を育てやすくなります。
一棟貸し・グランピングたとえば一棟貸しやグランピングなら、仲間や家族の記念日にも使われる宿です。泊まった人が写真や動画を共有しやすい景色を用意し、次の記念日に使える公式サイト限定の案内を渡すと、グループの中の別の人からの予約にもつながります。

05公式サイトと動画は、何を伝えればいい?

予約サイトで宿を見つけた人が、宿の名前で検索して公式サイトを確かめることもあります。そこで迷わず予約まで進めるかが、直販の分かれ目です。

写真では伝わらないものを、動画で

部屋に入ったときの広さ、窓からの景色、湯の音、夕食が運ばれてくる様子。写真では伝わりにくい「宿の空気」は、動画の得意分野です。公式サイトの最初に短い動画を置けば、予約サイトとの違いが伝わりやすくなります。

動画は長くなくてかまいません。玄関、客室、お風呂、食事の順に見せると、泊まったあとの時間を想像しやすくなります。

山梨の観光客が旅行のきっかけとして最も多く挙げたのは「家族・友人の話」で、57.1%でした(くわしくは「地方・郊外の飲食店の集客方法」)。動画は、泊まった人が家族や友人に宿を見せるときの材料にもなります。

Googleで、公式サイトから予約できるようにする

公式サイトの予約ボタンは、スマホでもすぐ見つかる場所に置きます。動画で「泊まりたい」と思った人が、迷わず空室を確かめられることが大切です。

Googleの宿泊施設の検索には、宿の公式サイトの料金と予約リンクを無料で載せられる仕組みがあります。クリックされても費用はかからず、お金で順位を上げることもできません。今は、使っている予約システムなどの連携先を通して設定します。まずは予約システムの会社に聞いてみましょう。

06季節の発信は、いつ何をする?

桃の花が満開の果樹園の並木

旅行の予約は、泊まる日より前に入ります。発信は、その季節が来る前に始めるのが基本です。

時期山梨の宿の様子(2025年)発信の例
1〜2月旅館の稼働率が低い谷冬の澄んだ富士山、温泉、静かに過ごせる平日の案内を秋から
4〜5月花の季節。リゾートホテルは70%前後桃の花や新緑の景色を、冬のうちに
6月梅雨の時期で、稼働率が低い雨の日の過ごし方、部屋食や館内の楽しみ
7〜8月8月は旅館の稼働率が年間でいちばん高い果物の季節、家族旅行のプランを春から
10〜11月紅葉とワインの季節紅葉の見ごろや新酒の話題を夏の終わりから

谷の月は、平日の連泊や、近くの県から来る人向けのプランなど、公式サイトだけの企画を試しやすい時期でもあります。予約サイトで値下げをする前に、まず常連のお客様へ直接案内してみましょう。

外国人の宿泊は、2025年は毎月18万〜31万人泊ほどで、日本人に比べて季節の差が小さいのも山梨の特徴です。海外のお客様向けの発信は「山梨のインバウンド集客」をご覧ください。

季節の動画は、毎年撮り直す必要はありません。一度撮った景色や料理の映像を、年ごとに組み替えて使えば、少ない手間で発信を続けられます。

07よくあるご質問

Q直販の比率は、どのくらいを目指せばいいですか?
A

公的な統計で示された目安は見当たりません。まずは今の比率を予約経路ごとに数え、リピーターの予約がどこから入っているかを確かめるところから始めましょう。

Q小さな宿でも、自社の予約システムは必要ですか?
A

公式サイトで空室を見てそのまま予約できると、途中で離れる人が減ります。Googleの無料の予約リンクも、予約システムなどとの連携が前提です。費用と手間を比べて検討しましょう。

Q動画はどこに載せればいいですか?
A

公式サイトの最初、Googleのビジネスプロフィール、InstagramやYouTubeが基本です。予約サイトの宿のページに載せられる場合もあるので、各社の決まりを確かめましょう。

Q宿の紹介動画や季節の発信を相談できますか?
A

はい。客室や料理、季節の景色の撮影から、公式サイトやSNSでの使い方、首都圏などに向けた広告まで相談できます。ご相談・お見積もりは無料です。

まとめ

予約サイトは、初めてのお客様に出会う場所として残し、2回目からは公式サイトで予約してもらう。山梨は首都圏から家族で何度も来るお客様が多く、その流れを作りやすい土地です。帰る前に次のきっかけを渡し、写真では伝わらない宿の空気を動画で伝え、季節の発信は早めに始める。この積み重ねが、手元に残る予約を増やしていきます。

参考:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年確定値、2026年7月公表)/観光庁「旅行・観光消費動向調査」(2025年確報)/観光庁「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドライン」(Ver.1.3)/観光DX推進のあり方に関する検討委員会 資料「地域OTAに関する検討課題」(2025年2月)/山梨県「観光入込客統計調査」(令和6年)/公正取引委員会(2019年10月)/公正取引委員会(2022年3月)/公正取引委員会(2022年6月)/Google Hotel Center ヘルプ(無料の予約リンク)/Google Hotel Center ヘルプ(料金を表示する)/厚生労働省 改正旅館業法

この記事を書いた人 木本 一心ホマレグラフ株式会社 代表取締役 / Ad Arch グループ 山梨県拠点代表

山梨県甲斐市と東京都港区を拠点に、映像制作を軸に、SNSマーケティングと広告の事業を行っています。映像の企画・撮影・編集から、TVer広告やSNS運用まで、広告エージェンシーとして1社でまとめてお任せいただける体制です。全国24拠点・TVer広告の正規代理店ネットワーク「Ad Arch グループ」の一員です。

この記事の数字や制度は、官公庁・業界団体・各社の公式発表で確かめたものだけを載せ、出典を記事の最後に並べています。内容は公開日時点の情報です。

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